『風の歌を聴け』 著:村上春樹 刊:講談社 発売日:1979年7月23日
ジャンル:文学 国:日本
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。
映像化作品
1981年に映画化されています
こんな人にお勧め!
・村上春樹の作品が好きな方
・クールな作品を読みたいと思ってる方
・お洒落な作品を読みたいと思ってる方
内容
一九七〇年の夏、海辺の街に帰省した“僕”は、友人の“鼠”とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、“僕”の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。
レビュー
「あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風にして生きている。」これは、本作の作中に出てくる言葉の引用です。
なんとも不思議な言葉だと思います。私はずっと、小説というものは、なにかを捉え、(その多くは人間の心)デッサンしたものだと思っていましたが…。村上春樹氏はそう思っていないのでしょうか?
本作には内容らしい内容はありません。ただ、29歳の「僕」の日常を軽妙なタッチで描き出しているだけの作品です。本作は第22回群像新人文学賞を受賞していますが、選考委員からは、「こんなちゃらちゃらした小説は文学じゃない」という声も挙がったそうです。まあぶっちゃけ、そういう声が出てきてもおかしくはない作品だと思います。本作には何の葛藤も描かれていなければ、何かメッセージ性がある訳でもありませんし。
しかし、私はこの作品をとても面白い作品だと思いました。なんというかこう…上手く説明出来ないのですが、タイトル通り胸の中にさわやかな風がふいたような…。それでいて、少し物悲しい気分にさせる、夏の終わり頃にだけ感じられるフィーリングを覚えたというか…そんな感じがしたのです。言葉にするのが難しい感覚なのですが。
また、作中に登場する数多の音楽や、デレク・ハートフィールド(最も、この人は架空の人物らしいですが)を始めとするアメリカ文学の引用が出てきたり、お洒落なバーが出てきたり、なんというか、都会的で洗練された「クール」な描写が多く、読んでいて楽しいです。本作はあまり固くなりすぎずに、冷えたビールとクラッカーを片手に、雰囲気重視で読むべき作品なのかもしれません。
という訳で、今回のレビューを終えます。短い小説ですし、気になったら読んでみて下さい。私は村上春樹氏の小説は何冊か読んでいますが、その中では本作が一番面白かったです。