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近代日本文学の代表作『砂の女』レビュー

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砂の女』 著:安部 公房 刊:新潮文庫

      発売日:2003/3/1(オリジナル版は1962年6月8日) 

      ジャンル:文学 国:日本

 

内容

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。

 

受賞歴

第14回(1962年度)読売文学賞
1967年度最優秀外国文学賞

 

映像化作品

1964年に映画化されています。こちらの映画版も、様々な受賞が為されており、評価が高いようです。

 

レビュー

本作は、日本を代表する作家である安部公房の代表作であり、日本以外にも、様々な国で翻訳され、出版された名著であります。

そのストーリーは、昆虫採集の為に地方の寂れた村に立ち入った教師の男が、その村に監禁され、そのまま帰れなくなるというものです。本作は文学作品に分類される作品ですが、サスペンスとして読む事も可能です。しかも、それでいて寓話に満ちた、シニカルな御伽話のようにも思えます。

私は本作を読んでいる内に、違和感というか、形容しがたい不安感のようなものを感じました。本作の世界観は歪で、どう考えても普通では無いですが、何故だが村の住人達は、そのおかしな世界観に適応していて、自分達が属している社会が「普通」だと信じて疑いません。主人公にしても、当初こそおかしな世界観にとまどっていましたが、最終的にはその社会に対して、大した疑問ももたなくなっていきました。

この現象はいわゆる、「正常性バイアス」と呼ばれる現象なのだと思います。正常性バイアスとは、自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと思い続けてしまう心理現象の事です。

大抵のサスペンスは、事件が発生すると「なんとかしてこの窮地を脱しよう!」みたいな感じにストーリーが展開していきますが、本作の場合は、次第次第に違和感を覚えなくなる主人公そのものに、焦点があてられています。そして、その感覚から取り残された読者は、大きな不安感を抱く事になります。

人間の認識なんてものは、いい加減で、脆く、崩れやすいものであるという事実を、本作は嫌という程突き付けてきます。人間というのは、どんな環境下に置かれても「適応してしまう」生き物なのです。たとえ、その状態が自分にとって、大きな害を及ぼすものであってもです。

我々が日常だと思っているものは、本当に日常と呼んでいいものなのか?その疑問を、本作は読者に投げかけてきます。しかし、いくら考えても答えは出ないでしょう。そもそも日常という概念が、実態不明のよく分からないものですから。

という訳で、今回のレビューを終えます。普段文学作品を読まない人にも、本作はお勧めする事が出来ます。サスペンス調になっているので、きっと楽しく(?)読む事が出来ると思います。是非読んでみて下さい。

 

砂の女 (新潮文庫)

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砂の女 特別版 [DVD]

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  • 発売日: 2002/04/14
  • メディア: DVD