ウゴのレビューサイト

ウゴのブックレビュー

私ウゴが、読んだ本と、たまに映画と音楽の紹介をします。

暗黒の少年文学『蠅の王』レビュー

f:id:Beelzebul:20210115134908j:plain

『蠅の王』 著:ウィリアム・ゴールディング 訳:平井 正穂  刊:新潮社

      発売日:1975/3/30(オリジナル版は1954年)ジャンル:文学 国:イギリス 

 

内容

未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく…。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。

 

映像化作品

1963年と1990年に、二回映画化されています。

 

レビュー

本作『蠅の王』は、ノーベル文学賞や、ブッカー賞も受賞した偉大な作家、ウィリアム・ゴールディングの代表作です。

私が読んだのは新潮文庫版ですが、現在ではハヤカワ文庫から新訳版が発売されているので、今から読むのならそちらをお勧めします。

本作は、有名な少年向けの冒険小説である、『十五少年漂流記』のオマージュ的な作品であります。しかし、『十五少年漂流記』と違って、本作の作風は暗く、攻撃的です。

無人島という、文明から隔離された環境に置かれた少年達は、次第に理性を失い、彼等の心の中に住まう狂気に呑み込まれていきます。

ゴールディングは、文明とはかくも脆く、所詮壊れやすい紛い物でしか無い現実を、冷徹に描き出しています。それは、無人島に置かれた少年達だけに限らず、世間の大人達にも言える事です。物語のギミックとしては殆ど活かされていませんが、本書の世界観は、第三次世界大戦(第四次?)が起こった近未来なのです。

タイトルにもなっている『蠅の王』とは、聖書に登場する悪魔である、ベルゼブブを指しています。(ちなみに、私のユーザー名は、ここから拝借しました)近世までは、理性は、人間が持つ最も素晴らしい概念だと信じられていました。しかし、ゴールディングが本作を書いた時代は、1954年…つまり戦後です。彼は戦争体験を経て、理性など吹けば飛んでしまう様な、薄っぺらいものでしか無い事を痛感しました。結局のところ、理屈不要の攻撃性こそが、人間を人間たらしめている、最も重要なファクターなのです。実際、人類は幾度もの戦争体験を経た結果、偉大な文明を築き上げる事が出来たました。『イタリアではボルジア家三十年間の戦火・恐怖・殺人・流血の圧政の下で、ミケランジェロダ・ヴィンチなどの偉大なルネサンス文化を生んだ。が、片やスイスはどうだ? 麗しい友愛精神の下、五百年に渡る民主主義と平和が産み出したものは何だと思う?鳩時計さ』という台詞を、映画第三の男の中でオーソン・ウェルズが放っています。神が人間に与えた理性では無く、悪魔が人間に与えた獣性によって、人間は進化を遂げる事が出来ました。

結局、人間から獣性を切り離す事など出来ないのでしょう。我々は心のどこかで、破滅を望んでいます。では、一体どうすれば破壊願望から逃れる事が出来るのか?その答えは本作の中では示されません。ゴールディングはただ、人間が抱える心の闇の深さを、読者に嫌という程思い知らせるだけです。安易な救済は、本作の中には存在しません。

しかし、それが現実だと私は思います。本作が世間で名作として認識されている所以は、現実の厳しさを直視し、それを文学作品として昇華しているからだと思います。我々は獣性から逃れる事は出来ませんが、芸術を始め、様々な表現方法によって、その衝動をコントロールする事は可能な筈です。本作の内容は禍々しいものですが、本作の存在そのものが、読者に希望を齎してくれます。

という訳で、今回のレビューを終えます。とても面白い、私一押しの作品なので、是非読んでみて下さい。

 

 

 

蠅の王 [DVD]

蠅の王 [DVD]

  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: DVD
 

 

 

蝿の王 [DVD]

蝿の王 [DVD]

  • 発売日: 2003/04/11
  • メディア: DVD