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ヒーロー不在の世界を正確にデッサンした名作 『ヴェノム』レビュー

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ヴェノム

公開:アメリカ 2018年10月5日 日本 2018年11月2日 

ジャンル:アクション

 

内容

敏腕記者エディ・ブロックは、人体実験で死者をだしているという<ライフ財団>の真相を追う中、ある“最悪な”ものを発見し接触してしまう。それは<シンビオート>と呼ばれる地球外生命体。この接触によりエディの体は寄生され、シンビオートはエディの体を蝕み一体化しヴェノムとして名乗りを上げ、最も残虐な悪<ダークヒーロー>が誕生する…!

 

レビュー

私の父は断固としてアメコミ原作の映画を観ようとしません。(ちなみに歳は50代後半です)その理由を尋ねると、「アメコミは勧善懲悪がはっきりし過ぎてる上に、雰囲気が明る過ぎてつまらないから」だそうです。奥行きを感じないという事でしょうか?

私は毎度、この評論を聞く度に「そうでもなくないか?」と思ってしまいます。むしろアメコミ原作の映画って、クリストファー・ノーランが監督した『ダークナイト』にしても、『ウォッチメン』にしても、やたら暗鬱な雰囲気な映画が多い気がします。MCUにしても、当初こそ娯楽作として徹底されていましたが、シリーズを重ねるにつれ、どんどん話が小難しく、暗い作風になっていったような印象があります。私はそれが嫌で、途中でMCUを追いかけるのを止めてしまいました。

まあでも正直(アメコミ好きな人には申し訳ないですが)父が宣った評論の後半部分には、同意してしまいます。私は今までにアメコミ原作の映画を何本か見てきましたが、めちゃくちゃ面白いと思った映画は殆どありませんでした。まあせいぜい「良い暇つぶしにはなったな」とか、その程度です。(あ、でもキアヌ・リーブス主演の『コンスタンティン』は好きです)

これは私なりの考察なのですが、日本人にはアメリカ人が思い描くような「ヒーロー」像が伝わりにくいのでしょう。それが原因になっているせいで、日本ではそれほどアメコミ界隈が盛り上がらないのだと思います。どうしても、一部の物好き達だけが喜んで鑑賞している様な印象が拭えません。

という訳でアメコミ映画と相性が悪い私なので、本作『ヴェノム』に対しても大して期待していませんでした。しかしどういう風の吹き回しか、何故か急に『ヴェノム』が観たくなったので、その好奇心が消えない内に本作を鑑賞したという次第です。

で、見終わった感想としては…予想外に面白かったです。絶賛する程でもありませんが、これまでに私が鑑賞したアメコミ映画の中では、上位に来る面白さでした。

でも何で自分はそう思ったのだろう?映画を鑑賞し終わった自分は、自分自身が抱いた感想に疑問を覚えました。本作『ヴェノム』は、とりたてて目新しいストーリー展開がある訳でもありません。というかまあ、「失業中の男に宇宙人が寄生し、スーパーパワーがうんたらかんたら…」という、はっきり言ってよくある話です。陳腐な展開が続く作品と言われても、正直否定しようがありません。

実際、本作は批評家からの評価は芳しくないようで、「CGだけは良く出来てる」みたいな評価に落ち着いています。しかしその反面、一般の観客には受けが良く、なんと続編の製作が既に決定されています。というより、MCUのように、今後もシリーズ化していくそうです。名称は「ソニー・ピクチャーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクター、略してSPUMC」と言うそう。

つまり本作は「批評家からは酷評されてる一方、一般の観客からは絶賛されている映画」という、妙な作品なのです。何故これだけ両極端な評価になってしまったのでしょうか?

その答えは、本作のストーリーに、多くの観客が共感したからではないか?と私は思うのです。上述した通り、本作の主人公エディは失業しています。と言っても、彼は無能だから失業した訳ではありません。ネタバレになるので詳しい理由は伏せておきますが、エディは正義感に駆られて行動した結果、悲運な事に失業してしまったのです。本来は仕事の出来る、優秀な男であるにも関わらずです。

で、彼を失業に追い込んだ張本人が、本作の敵役であるカールトン・ドレイクです。彼は所謂「勝ち組」で、医療福祉から宇宙開発まで、様々な分野で活躍しています。しかし、その裏で非道な行いを繰り返しています。彼は善人の仮面を被った悪人。つまり偽善者である訳です。

アメコミではバットマンの「ジョーカー」にしろ、MCUの「サノス」にしろ、見るからに悪人、或いは人類の価値観とは絶対に相いれない思想を持つ人物が、悪役になるケースが多い気がします。本作ドレイクのように、世間では善人として認識されているにも関わらず、実際は悪人…みたいな悪役はあまりいません。それもその筈でしょう。何故なら、ヒーローは世間の人間から「正義」と認識された瞬間に、初めてヒーローになるのですから。いくら強くても、世間の人間からヒーローとして認識されなければ、ヒーローにはなりません。単なる頭のおかしな異常者です。映画「ダークナイト」では、この部分にフィーチャーが置かれていました。

ですが、現代社会では御存知の通り、多くの価値観が存在しています。20世紀の時代には、悪を打ち倒す存在がヒーローであり続けました。ですが、そもそも現代では「悪とはなにか?」というところから始めなければなりません。しかし、いくら議論しても答えは出ないでしょう。それぞれの生い立ちも思想も違えば、信じる「正義」や、軽蔑すべき「悪」も変わって来るのは必然です。

例えば、今の時代では「正義」とされているグローバル化エコロジー活動も、後世ではどういう扱いになっているのかは誰にも分かりません。昔は同性愛は悪とされ、有色人種の扱いは悲惨なものでしたが、当時の大多数のアメリカ人にとっては、そういう振る舞いをするのが普通の事だったので、あまり関心の無い問題だったのだと思います。

それが今ではひっくり返りました。今や同性愛を支持しない人間や、人種差別的な言動を少しでもした人間には、悪人のレッテルを貼られます。そして、現代で正義とされるグローバル化が推し進められている一方で、グローバル化のせいで仕事を失った人間も大勢います。『ヴェノム』のドレイクは、正にグローバル化を推し進めている側の人間です。彼はアメリカ人ではありません。イギリス人です(ちなみに、ドレイクの役を演じているリズ・アーメッド本人もイギリス人です)彼はグローバル化によって、巨万の富を得ました。しかし主人公であるエディは、そのドレイクによって仕事をクビにされました。

作中、エディは安酒をかっくらいながら、テレビの中で宇宙開発について熱弁をふるうドレイクを、苦々し気に眺めるシーンが存在します。なんでもないシーンですが、きっと多くの観客は、このシーンがあったお陰で、エディに強く感情移入出来るようになったのだと思います。自分はこれほどまでに不遇な目にあっているのに、なんであんなペテン師野郎が…と。

現在のアメリカ…いや、アメリカだけでなく日本でも、自分もいつか低所得者に転落するのではないか、という恐れを抱いている人が大勢存在しています。そんな人達が、エディとヴェノムに大きな共感の念を抱いたのでしょう。ヴェノムはヒーローではありません。というより、むしろ人類に仇名す敵です。ですが、それでいいのです。誰もが認めるヒーローという存在がいなくなった現代では、むしろ欲望のままに行動する悪役の方が、余程共感できるし、応援できます。本作『ヴェノム』とDCの『ジョーカー』が大ヒットした理由は、そこにあるのだと思います。

長くなりましたが、以上が私が考察した、本作のヒットした理由です。今後の世の中は、ますます価値観が入り乱れ、混沌としていくと思います。その中で、これまで一つの価値観だけを提示していたアメコミ映画は、どうなっていくのでしょうか。もしかしたら、完全にヒーローがいなくなり、悪役を主役とした作品ばかりが作られる様になっていくのかもしれません。ともかく、本作『ヴェノム』は、新たな時代の到来を告げる、マイルストーン的な作品であると思います。是非一度、鑑賞してみて下さい。

 

 

ヴェノム (吹替版)

ヴェノム (吹替版)

  • 発売日: 2019/01/11
  • メディア: Prime Video