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「アフリカ文学の父」の最高傑作 『崩れゆく絆』レビュー

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崩れゆく絆 チヌア・アチェベ著 栗飯原文子訳 光文社古典新訳文庫

発売日:2013/12/5(オリジナル版は1958年) ジャンル:文学 国:ナイジェリア

 

内容

古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。「アフリカ文学の父」の最高傑作。

 

映像化作品

1970年、2008年に映画化、1987年に、ナイジェリアでテレビドラマ化されているようですが、日本ではソフト化されていないようです。

 

レビュー

本作は、「アフリカ文学の父」という異名を持つ、チヌア・アチェベの著作です。日本での知名度はそこまでありませんが、アフリカや欧米では高い評価を得ている作家です。

私自身も彼の事を知りませんでしたが、彼が持つナイジェリア出身という肩書に興味を持ち、本作を購入しました。

その内容はやはりというか、欧州に植民地支配されるナイジェリアの地を描き出したものです。しかし、単に欧州を批判しただけの本でもありません。アフリカ社会の問題点、徐々に忍び寄る支配に対する恐怖感、ジェンダーの問題、宗教対立…等々、幅広い題材が、361頁の物語の中に上手く組み込まれています。

この光文社版では、邦訳を担当した栗飯原さんによる詳しい解説がついているので、日本人にはイメージしにくいナイジェリア社会(というより、ナイジェリアと名付けられた地に住んで居たイボ人達)の習慣が良く分かります。

本作を読んだ感想を一言で言うと、非常に面白かったです。なんでこんなに面白い本とアチェベの名前が、日本では知られていないんだ?と単純に疑問に思いました。前述した通り、本作はナイジェリアだけでなく、欧米でも高い評価を得ています。

日本は地理的な条件が良かった事と、先人達の決死の努力の成果があった事も重なり、欧米に侵略されませんでした。というより、他国に侵略された経験がありません。このような国は世界ではかなり珍しいのではないか?と思います。ヨーロッパの国々やアメリカでさえも、元はどこかの国の植民地や占領地だった経験があったりますし。

しかしその事実は、日本人を平和ボケさせた一因と言えるのかもしれません。これは前から思ってた事なのですが、どうして日本人は「日本の良いトコロって何?」と問われても、「一度も他国に侵略されてない点」と答えないのでしょうが。個人的にはかなりスゴイ事だと思うのですが。それとも、「平和が普通の事であり、戦争状態や支配される事の方が稀な状態」だとでも思っているのでしょうか。

本作「崩れゆく絆」の特筆すべき点は、「欧米に支配されている最中のアフリカ社会」ではなく、「徐々に欧米の価値観がアフリカを侵略していく様子」にフィーチャーをあてて描き出した点だと思います。イボ人達の社会には、元々大きな制度上の欠陥がありました。その部分に不満を思うイボ人の若者達は、自ら率先してキリスト教の教えに迎合し始めました。勿論、キリスト教を啓蒙する側の人間は、自分達がアフリカ社会を支配したいからそうしているのであって、別にイボ人達の事を想って行動した訳ではありません(勿論キリスト教そのものに罪はありません。悪と断定するべきは、その教えを自分達の利益の為に利用した人間です)

支配というものは、このように音をたてずに近付いてくるんものなのだと思います。そこに恐ろしいリアリティがあります。(本作はフィクションらしいですが)

という訳で、今回のレビューを終えます。歴史上の出来事を題材にした、とても興味深い本です。是非一度、本作を読んでみて下さい。何か得られるものがあると思います。

 

崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫)

崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫)