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コロナ禍の今再び注目される名作 『ペスト』レビュー

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ペスト カミュ著 宮崎 嶺雄訳 新潮文庫

発売日:1969/10/30(オリジナル版は1947年) ジャンル:不条理小説 国:フランス

 

内容

アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。

 

レビュー

本作はノーベル文学賞を受賞した作家、カミュの代表作です。カミュは不条理小説を書くのを得意とし、本作の他には『異邦人』や『シーシュポスの神話』が代表作です。

本作『ペスト』は1947年に書かれたものですが、コロナ禍の現在、小説の内容と現実が酷似していると話題になり、なんと今年だけで15万4千部も増刷されたらしいです。このデータは4月のものなので、現在ではさらに売られている事でしょう。近所の本屋でも、本作が山積みになっていました。

私は既にカミュの書作である『異邦人』は読んでいましたが、本作『ペスト』は読んでいなかったので、今回が良い機会だと思って読んでみました。成程、確かに本の内容と現実が恐ろしい程に酷似しています。丁度春先に病気が発生して、その年の冬頃までパンデミックが続いているところもズバリです。小説では冬頃になると、感染の勢いも徐々に落ち着いていきますが、現実ではむしろどんどん感染者の数が増えていっている辺り、現実の方がフィクションよりも過酷な状況に陥っていると言う事も出来るかもしれません。しかし、パニックに駆られてはいけません。本作『ペスト』にも、もしかしたらパンデミックが一生続くのではないかと考える人間が現れますが、現実的に考えて、感染症は次第に落ち着いていきます。その証拠に、人類は過去に何度も悪質なウイルスによってその命を脅威にさらされ続けてきましたが、我々の時代にまで文明が続いているではありませんか。ましてや現在では科学技術も発達していますし、ワクチンも出来上がっています。作中でも示されるように、絶望して思考停止に陥り、狂騒に駆られるのが一番危険な行為なのです。

さて、本作のジャンルは不条理小説です。カミュは不条理小説を作り出すのを得意とする作家であり、『異邦人』も不条理小説として分類されています。カミュと同じく不条理小説を得意とする作家にはカフカの名前が挙げられますが、彼の代表作、『変身』を読めば分かるように、カフカは何の前触れも無く個人に襲い掛かる不条理を主題に描き出しているのに対して、カミュは唐突に不条理によって脅かされる社会を主題に描き出しています。同じジャンルを得意とする作家であっても、二人のアプローチの仕方はまるで正反対なのです。(といっても、私は二人の全作品を読んでいる訳では無いので、例外もあるのかもしれません。ご了承下さい)これは恐らく、二人の生い立ちの違いが影響しているのかな?と個人的には思うのですが、その辺を語りだすと長くなりそうなので、これくらいにしておきます。

本作『ペスト』と『異邦人』の違いとしては、『異邦人』が不条理そのものを描き出しているのに対して、『ペスト』では不条理に立ち向かう人々が描かれています。本作に乗ってあった解説によると、なんでも今作はアメリカの作家、メルヴィルが書いた『白鯨』に影響を受けている為に、そのようなストーリーになったらしいです。(白鯨のストーリーをざっくり説明すると、モビー・ディックという名の怪物鯨と戦う男達を描いた作品です)個人的には『異邦人』の方が面白かったですが、本作『ペスト』の方が万人受けするかな、と思いました。「未知なる脅威に立ち向かう人間達」という主題で書かれた作品は、ポップカルチャーで良く見かけますし、普段文学作品を読まない人にとってもとっつき易い作品だと思います。というか文学作品では上記のテーマを掲げた作品はあまり見ないですね…何か理由があるのでしょうか?知っている人がいたら是非とも教えて欲しいです。

という訳で今回のレビューを終えます。優れた文学作品は、高度なシミュレーションたりえると思います。現実にパンデミックが発生している今こそ、本作を読む時だと思います。是非御一読下さい。

 

ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)