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甘い蜜の部屋 レビュー

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森茉莉著 ちくま文庫

発売日:1975年 ジャンル:文学 国:日本

 

受賞歴

泉鏡花文学賞受賞

 

内容

少女モイラは美しい悪魔だ。生まれ持った天使の美貌、無意識の媚態、皮膚から放つ香気。薔薇の蜜で男達を次々と溺れ死なせながら、彼女自身は無垢な子供であり続ける。この恐るべき可憐なけものが棲むのは、父親と二人の濃密な愛の部屋だ―。大正時代を背景に、宝石のような言葉で紡がれたロマネスク。

 

レビュー

本作は森茉莉という女性が書いた作品です。何故私が本作を手に取ったかというと、作者である森茉莉の生い立ちに興味が湧き、そこで彼女の代表作である本作を手に取ったのです。

この本の内容を、ざっくりと要約してしまうと、父と娘の禁じられた愛を描いたお話しなのですが…実は作者である森茉莉自身、相当なファザコンだったらしいです。なんでも16歳になるまで、父親の膝の上に座っていたとか。

彼女の父親も、彼女と同じ様に作家でした。もしかしたら「森」という名前を見て、察しの言い方はピンときたかもしれません。そうなのです、彼女の父親は、『舞姫』や『山椒大夫』『高瀬舟』で有名なあの森鴎外なのです。

私小説は元々日本人作家が得意とするジャンルでありますが、森茉莉は数々の偉大な日本人作家の中でも、トップクラスに自身の心を描き出すのが上手い作家だと思います。本作を描いた時、なんと既に彼女は60歳を超えていましたが、それでもなお彼女は父親である森鴎外に対する思慕の念を抱き続けていました。きっととても純粋な方だったのでしょう。

主人公のモイラは、成長するにしたがって次第に妖艶になっていく。そして彼女が十代後半を迎えた頃には、まるで美しくも毒のある花に蜂が寄って来るかのように、様々な男が彼女の前に姿を現す。しかし、彼女は男達にはまるでたなびかない。何故なら、彼女の心は幼い頃のまま保管されており、その恋心は自身の父親に向けられているから…。モイラは男性を誘き出し、そして彼等が胸の奥に隠し持っているサディスティックな欲望を引き出し、吸収していく…そしてさらにモイラは美しくなっていく。

三島由紀夫は本作を官能的傑作と激賞し、褒めちぎったらしいですが、それも頷けます。三島由紀夫の作品とは少し方向性が違う気がしますが、本作が頽廃的な美の頂点に立つ作品である事は誰にも否定できないでしょう。

時代設定も見事です。本作の舞台は大正時代になっています。大正時代という時代設定が、特別ギミックとして物語に活かされている訳ではありませんが、このようなロマンチズムに溢れた作品の時代設定は、大正時代以外にはありえないでしょう。昭和の動乱の時代だと少々無粋ですし、明治時代も少し違う。…やっぱり大正時代以外にはあり得ません。

最も、作者である森茉莉自身は、特別本作の舞台設定にこだわりは無かったのかもしれません。ただ単に、その方が書きやすいという理由で、自らの少女時代を過ごした時代に舞台設定を敷いただけなのかも。いずれにしても、素晴らしい決断だったとは思いますが。

とても美しい作品です。是非手に取って、読んでみて下さい。

 

甘い蜜の部屋 (ちくま文庫)

甘い蜜の部屋 (ちくま文庫)

  • 作者:森 茉莉
  • 発売日: 1996/12/01
  • メディア: 文庫