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私ウゴが、読んだ本と、たまに映画と音楽の紹介をします。

死の接吻 レビュー

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死の接吻 アイラ・レビン著 中田耕治訳 ハヤカワ・ミステリ文庫刊

発売日:1976/1/1(オリジナルの英語版は1953年)ジャンル:ミステリー 国:アメリ

 

受賞

アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀処女長篇賞

 

内容

二人は学生同士の恋人だった。女は妊娠しており、男は結婚を迫られていた。彼女をなんとかしなければならない。おれには野心があるのだ――冷酷非情のアプレゲール青年の練りあげた戦慄すべき完全犯罪。当時弱冠二十三歳の天才作家の手になる恐るべき傑作! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀処女長篇賞受賞作。

 

映像化作品

『赤い崖』というタイトルで、1956年に映画化。原題と同じタイトルで、1991年に再映画化されています。

 

レビュー

本作『死の接吻』は、『ローズマリーの赤ちゃん』で有名なアイラ・レヴィンのデビュー作です。日本語版は20年以上の長いインターバルを挟んでやっと邦訳されていますが、オリジナルの英語版は1953年に出版されました。

この作品、1953年という、第二次世界大戦直後の時代に書かれているのにも関わらず、戦場でPTSDを患った帰還兵の問題を扱っています。アメリカで帰還兵のPTSDが社会問題として扱われるようになったのは、ベトナム戦争以降になってからなので、かなり先駆的な作品だと言えるでしょう。最も、作中でPTSDという単語は出てきませんが。

他にもアメリカの風土病とも言える、過剰な男らしさへの憧れに対する警鐘、そしてマザーコンプレックスが引き起こす狂気についてまで、物語の中に上手く取り入れられています。わずか23歳でこれほどまでに練り上げられたストーリーラインを創造するとは…アイラ・レヴィンに対する畏怖の感情を禁じ得ません。

多くの女性が活躍しますし、もしかしたら今の時代にもう一度映画化したら受けるんじゃないかな?もう既に二回映画化されているようですが、今風に物語をアレンジしたら、結構売れる様な気がします。

本作の構成は、まず最初に事件を引き起こした犯人の視点から物語が描かれ、その後探偵役の人物に視点が移ります。多角的な視点で物語が進行していくにも関わらず、複雑になりすぎずに、読者をぐいぐい物語の世界に引き込んでいきます。

犯人は私欲の為に、自分の子供をその身に宿した恋人を殺害します。到底許される行為ではありませんし、その所業は悍ましい限りですが、だんだんと犯人の過去がクローズアップされていくにつれ、彼に対する同情の念を、読者は抱かずにはいられなくなります。もし少しでも環境が違えば、彼は事件を起こさずに、典型的なアメリカの模範市民として、その生涯を全うしたかもしれない…。

といっても、辛酸を嘗める様な惨めな暮らしを犯人がおくっていた訳ではありません。というよりむしろ、今作の時代背景は戦後すぐにも関わらず、大学に通っているくらいなので、経済的には恵まれている方でしょう。しかし、です。

昨日か一昨日に、私はこのはてなブログツイッターで、婚活中の女性が考える「平均的な」男性は、星野源のような風貌の、年収500万円以上稼いでいる、最低でも日東駒専レベルの大学を卒業した者であるとの記事を読みました。いやいや、夢見過ぎだろと思わずにはいられないですが、(ちなみにこのレビューを書いてるウゴこと、筆者は男です)まあ女性というのは夢見がちな方が多いような印象がありますし、呆れる一方で、そんなものなのかなぁ、とも思ったりもしました。しかしネット上はかなり紛糾していましたね。

このように、男性に対する過剰な期待は、男女平等が叫ばれている現在であっても無くならず、むしろどんどん進んでいる様にすら思えます。実際日本では自殺者の7割が男性らしいですし(コロナ禍の今年は女性の自殺が増えているらしいですが)周囲の期待に応えようとした結果、精神を病んでしまう男性は相当数存在するのでしょう。

今作『死の接吻』の犯人は、恋人と母親から過剰な期待を受けた結果、精神を病んで犯罪の道に走ってしまいました。特に母親からかけられる期待は並のものではなく、彼女は自分の息子の事を歴史上の偉人か何かだと本気で思い込んでいる様な描写が存在します。ある意味では犯人の母親が、諸悪の権現でもある訳です。女性から過剰な期待を、幼い頃からかけられ続けた結果、犯人の心にはいつからか女性嫌悪の感情が芽生えていってしまいました。

悪人である事には違いありませんが、その一方で犯人は被害者でもあった訳です。

『死の接吻』は二十一世紀の社会問題を予言してみせた、とんでもない作品です。娯楽作ではありますが、単なる娯楽作と片付けるのはあまりにも早計であります。是非一度ご覧になって、犯人の心理状態に触れてみて下さい。もしかしたらそこから何か得る物があるかもしれません。その辺の社会問題について書かれた本や、心理学の本を読むより余程効果があると思います。勿論、そんな小難しい話しは抜きにして、質の高いミステリーとして読んでも素晴らしい作品だと思います。

 

 

 

 

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  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: DVD