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ニッケル・ボーイズ レビュー

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ニッケル・ボーイズ コルソン・ホワイトヘッド著 藤井光訳 早川書房

発売日:2020/11/19 ジャンル:米文学 国:アメリ

 

受賞

アレックス賞

カーカス賞

オーウェル

ピュリッツァー賞

 

内容

1960年代アメリカ。アフリカ系アメリカ人の真面目な少年エルウッドは、無実の罪により少年院ニッケル校に送られる。しかし校内には信じがたい暴力や虐待が蔓延していた――。実在した少年院をモデルに描かれた長篇小説。ニューヨークタイムズ・ベストセラー。

 

レビュー

現在、アメリカではブラック・ライヴズ・マター運動が勃発しています。この運動の内容を簡単に説明すると、黒人差別撤廃を訴えた、積極行動主義の運動です。

日本のメディア等では、略奪や犯罪行為に走る暴徒ばかりがクローズアップされて紹介されているような印象を受けますが、上記に書いた通り元々黒人差別撤廃を訴えた運動なので、ブラック・ライブズ・マター運動そのものを批判の対象とするのは筋違いです。悪いのは暴力行為に打って出る人間と、暴力そのものですから。

しかし何故、黒人達はこのような運動を行うのか?日本が単一民族の国だなんて事を言う気はありませんが、日本に住んで居るのは殆どが日本で生まれ育った日本人である事は事実。最近は外国人の姿を見ても特に何も思わなくなっているくらい、外国人の姿を見ている様な気がしますが、それでも比率でみると、日本に住む外国人の割合は、人口の2%くらいしかいないそうです。(2020年現在)

そんな国で育った国民なので、いまいち人種差別がどういうものなのか、実感が持てない人も多いと思います。しかしもしかしたら本書を読めば、人種差別、ひいては黒人差別と差別撤廃運動に対しての認識が変わるかもしれません。

本書の主人公であるエルウッドは、聡明で真面目な黒人の少年です。しかしエルウッドは或る日、黒人である事を理由に濡れ衣を着せられ、少年院に入れられてしまいます。

物語の舞台となった1960年代は、有色人種…特に黒人に対する差別意識が根強く残っていました。なんとバスの座席ですら、有色人種は白人専用の席には座ってはいけなかったくらいです。しかもその差別は、制度上認められていました。ジム・クロウ法です。実際にこの法律は、作中で言及されます。

そもそもこの「ジム・クロウ」という名前事態に差別意識が現れています。ジム・クロウというのは、田舎のみすぼらしい黒人を擬人化させたキャラクターの事です。

そんな時代の少年院がどういう体制なのかなど、わざわざ説明するまでもないでしょう。虐待と人種差別が横行する地獄のような環境の中で、エルウッドは生きていかなければならない羽目になります。

私は以前、当ブログで『ドッグ・イート・ドッグ』という本を紹介しました。その本の著者であるエドワード・バンカーは、『エドワード・バンカー自伝』という本も書いています。その本では、元犯罪者という肩書を持つバンカーが、刑務所で自らが体験した出来事を詳細に書き連ねています。アメリカの刑務所は、本当にドラマか映画の世界のように殺伐としているらしいです。『プリズン・ブレイク』の内容は、あながち誇張でも無い事を知って、私は戦慄しました。(というより、プリズン・ブレイクは実際に元受刑者や、現在進行形で塀の中にいる人から詳細に話を聞いて作り上げた作品らしいですので、かなりリアルに刑務所の人間関係を描写しているんだとか)

しかしバンカーはいっちゃあなんですが、いくら周りの環境が悪かったとしても、犯罪行為に手を染めて刑務所に入れられたので、自業自得的な面もありますが、本書のエルウッドは人種を理由に無実の罪で少年院に入れられているので、本当に悲惨だとしか言いようがありません。

しかも本作の内容は、あながち完全なるフィクションだとでも言いきれないんだとか。実際に最近、当時の少年院ではエルウッドのように無実の罪で収容された黒人もいたという証拠が出てきているらしいです。恐ろしい話しですね。

エルウッドは少年院の中で、どうすればこの環境から逃げ出せられるのか、必死に考えます。そして、彼がとった決断とは…。

こういう感じに書くと、まるで脱獄サスペンスの祖筋のようですが、そこは流石ピューリッツァー賞を受賞した文学作品。娯楽小説のようなエンターテイメントのエッセンスは、本作にはありません。内容も黒人差別という重い物を扱っていますし、文体も非常に抑制されていて、良く言えば淡々としてリアルな、悪く言えば抑揚にかけます。ストレス発散目的で読むのには向いていません。アドレナリンをどばどば出したいなら、大人しく『ドッグ・イート・ドッグ』でも読むか、『プリズン・ブレイク』でも見といて下さい(笑)本作は黒人差別を扱った文学作品を読みたい、という人向けの本です。

非常にセンシティブな問題を扱った本作ですが、様々な権威ある賞を受賞した偉大な作品です。読了した瞬間には、胸の内に痛みを感じながらも、崇高な感覚を覚える事請け負いです。是非読んでみて下さい。

 

エドワード・バンカー著の『ドッグ・イート・ドッグ』のレビュー

 

ニッケル・ボーイズ

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