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私ウゴが、読んだ本と、たまに映画と音楽の紹介をします。

拾った女 レビュー

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拾った女 チャールズ・ウィルフォード著 浜野アキオ訳 扶桑社文庫刊

 

内容

サンフランシスコ、夜。小柄でブロンドの美しい女がカフェに入ってきた。コーヒーを飲んだあと、自分は文無しのうえハンドバッグをどこかでなくしたという。店で働くハリーは、ヘレンと名乗る酔いどれの女を連れ出し、街のホテルに泊まらせてやる。翌日、金を返しにやって来たヘレンと再会したハリーは、衝動的に仕事をやめヘレンと夜の街へ。そのまま同棲を始めた二人だったが、彼らの胸中に常につきまとっていたのは、死への抗いがたい誘いだった。巨匠初期の傑作、遂に登場!

 

映像化作品

特に映像化はされていないようです。リチャード・ウィドマーク主演の同名タイトル映画がありますが、関係ありません。

 

レビュー

私ウゴは、一時期ハードボイルド作品に嵌っていた時期があります。そしてチャンドラーやハメット等の、ハードボイルド作家の代表作も読み終えると、このようなマニアックな作品にも手を出し始めました。

という訳でこの作品も、チャンドラーやハメットと良く似た作風なのかな?と考えて購入したのですが、意外な事に今作は少々作風が違っていました。シビアで乾いた世界観なのは確かなのですが、両者の作品の根底に流れていた、ヒロイックな要素が欠如していたのです。

個人的には、チャンドラーやハメットの作品よりも面白いと感じました。まあ、読後感が爽やかな作品ではありませんが。

この作品の主人公であるハリーは、かつては絵画の世界で将来を嘱望されていた若き天才だったのですが、第二次世界大戦で徴兵され、戦争から帰って来た頃には既にその存在を忘れ去られていました。そして、好きでも無い仕事に従事して、口に糊をしている。今風の言い方で言えば、ブルシットジョブに就いていたのです。

そんな折、ハリーは自らが働いている店に訊ねて来た、ヒロインであるヘレンに出会います。このヒロイン、今風の言い方で言えば、メンヘラでした。自殺願望のある彼女にハリーは危い物を感じますが、それと同時に彼女に対する言い様も無いシンパシーと、性的魅力を感じてしまいます。

そして二人は同棲する事になるのですが、こんな二人が上手くいく筈がありません。当然破滅の道に突っ走っていきます。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの舞台にもなった、「古き良きアメリカ」全盛期の1955年に描かれた今作ですが、そこには楽観的な雰囲気など微塵もありません。あるのはただ、自らの人生に対する諦観の念と、社会への憤りだけです。しかし二人は社会に対して何のアクションも起こしません。そのいら立ちを自分自身に対して向け、破滅願望に身を委ねてしまうのです。

まるで昨今の社会情勢を反映しているようではありませんか!70年近く前に描かれた今作ですが、今読んでも全く古びていません。というより、増々輝きを感じているように思えます。

読後感が爽やかな作品ではないと上記に描きましたが、現実にハリーのような境遇に置かれている様な人が読めば、もしかしたら救われたような感覚を得られるかもしれません。「自分は一人では無い、将来に対して不安を感じる人も、世の中にはいる」この本を読んでそう思える可能性は十分にあると思います。是非手に取ってみて下さい。

 

拾った女 (扶桑社文庫)

拾った女 (扶桑社文庫)