内容
烈々とした火炎の色。舞い狂う火の粉と黒煙の中で、黒髪を乱して悶え苦しむ美女。「地獄変」の絵を描くために倣慢な絵師が求めたものと失なったものは…?絢爛たる格調高い文体で、芸術家のエゴイズムを凄絶に描いた表題作ほか、著者前期の代表作を収録。
映像化作品
羅生門…1959年にテレビドラマ化 1950年には、御存知黒澤明監督が映画化
鼻…1959年、2010年、2016年にそれぞれテレビドラマ化
芋粥…1959年、1962年にそれぞれテレビドラマ化
地獄変…1969年に映画化 1962年にテレビドラマ化
蜘蛛の糸…2011年に映画化
秋…1959年、1966年にテレビドラマ化
藪の中…上記の黒澤明監督の『羅生門』は、タイトルこそ羅生門だが、内容は藪の中 を原作としている。他には、1964年に『暴行』というタイトルで映画化、1991年に『アイアン・メイズ/ピッツバーグの幻想』というタイトルで映画化、1996年に原作タイトルのまま映画化、1997年に『MISTY』というタイトルで映画化、2001年に『YABU -in a grove-』というタイトルで映画化、2009年に主人公である多襄丸を主人公としたオリジナルストーリーで『TAJOMARU』というタイトルで映画化されている。
トロッコ…2009年に映画化
レビュー
芥川龍之介の作品に、私が初めて触れたのは幼稚園生の頃だと記憶しています。
勿論、原作を読んだ訳ではありません。『蜘蛛の糸』の人形劇が、NHKで放送されており、それを鑑賞したのです。
赫赫と燃える火の海の中を悶え苦しむ罪人達、主人公のカンダタが見せる、アンビバレンスな善と悪の心、悲劇的なエンディング…。たった一回して見ていない筈ですが、その細かいディティールまで覚えている辺り、幼い自分は相当な衝撃を受けたのでしょう。
その後、中学生の時に黒澤明監督の映画『羅生門』を、高校生の時に国語の教科書で『羅生門』を読みました。芥川の作品には独特の魅力があり、鑑賞した後には胸がざわつく感覚をその度に覚えたものでした。その感覚は、ともすると『不快』な感情ともとれます。しかし、何故か私はその不快な感情の中に、興奮を見出す事が出来るのです。
冷徹なリアリズムと邪悪なサディズムを感じられる作品を、私は愛好するような傾向があるように思えます。(あまり大きな声で他人には言えませんが…)芥川の作品は文学的でありながら、その二つの要素を大きく感じられるのです。
そして今回、この短編集の表題にもなっている『地獄変』を読みました。…素晴らしいの一言です。なんでもっと早く読まなかったのだろうと、読み終わって後悔しました。そう思える程の作品に出合える機会は、それほど多くありません。
芸術家のエゴが炎となり、美女の身体と心を焼き尽す。愛娘が苦しみ悶える様を見ながら、悦に浸る男の狂気。他の短編もとても面白かったですが、『地獄変』はその中でもピカイチの面白さでした。芥川龍之介の最高傑作だと思います。
芥川の名前は知っているけど、羅生門以外は読んだ事が無いという人は、是非一度読んでみて下さい。地獄変の他には『蜜柑』と『トロッコ』が面白かったです。それにしても、芥川龍之介がこれほどまでに作風の広い作家だったとは、驚きでした。