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午後の曳航 レビュー

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午後の曳航 三島由紀夫

 

内容

船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実からの挑戦であった。登は仲間とともに「自分達の未来の姿」を死刑に処すことで大人の世界に反撃する――。少年の透徹した観念の眼がえぐる傑作。

 

映像化作品

1976年に、日米英合同で映画化されているらしいです。しかし登場人物は全員外国人に置き換えられているとの事。

 

レビュー

作者の三島由紀夫は言わずもがな、日本を代表する作家です。彼は生前、精力的に執筆活動に勤しんでいた為、数多くの著作が現代に残されています。

彼が残した作品で、オールタイムベストは何か?と尋ねれば、実に多種多様な回答が得られるでしょう。世間的に彼の代表作とされる『金閣寺古代ギリシャの古典からインスピレーションを得たとされる『潮騒』遺作である『豊穣の海』どれも素晴らしい傑作です。

私の一押しは今回取り上げたこの作品『午後の曳航』です。ちなみに私が最も敬愛する人物であるデヴィッド・ボウイもこの作品を愛読していたとの事。彼が生前に残した、「最も影響を受けた本100冊」の中にも、『午後の曳航』が選出されています。

この作品は上記に紹介した作品群に比べると、社会的な知名度は低いですが、三島由紀夫を突き動かした最も原始的な部分の衝動が見事に結晶化された快作であると断言します。ページ数も180ページ程しかないので、三島由紀夫を知る為の入門作としても適していると言えるでしょう。

十三歳の少年達が大人の世界に叩きつけた不条理と暴力。成長するに従い、男達は少年期に抱いていた灼けつくような渇きと飢餓感を忘却の彼方に押しやり、空辣な日常の世界へと逃避します。少年達はその絶望的な事実をどうしても許せませんでした。

少年達、そして彼等を創造した三島由紀夫は、日常の世界…陸には屍臭しかないと言い放ちました。彼等が求めるもの、『栄光』は海の世界にしか存在し得ないのでしょう。タイトルにも掲げられた『曳航』という単語は、『栄光』ともかけた洒落だと思われますが、作品のテーマを端的に表わした模範例と言えるでしょう。このタイトルを訳すのは容易な事では無かったでしょうが、翻訳を手掛けたジョン・ネイスンはThe Sailor Who Fell from Grace with the Seaという素晴らしい英訳を手掛けてくれました。

デヴィッド・ボウイファンの方は、この作品が稀代のロックスターにどのような影響を与えたのか、考察してみるのも一興かもしれません。

 

午後の曳航 (新潮文庫)

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  • 発売日: 2011/01/28
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